私の真ん中

甘いものが好きです。

不似合いな黒

白線からはみ出してはいけないんだと笑った。彼女のその言葉を信じて歩き続けた。

あれから二年経って、私の嫌いな冬が近づく。今年のコートは何にしようかと語る人たちを通り抜けて、私は去年買ったニットを取り出した。
音楽にも洋服にも、当時好きだったものにも、きっと誰かしらのスパイスが混ざっていて、鼻と心をくすぐる。そうだ、私は君が好きだった。

この服を着て知らない東京に行った。小さくて広い東京に。
息が白くなって、甘い贈り物を渡す日もとっくに終わって、
今年の桜は誰とどこに見に行けるのかなと考えていた。真っ暗闇の下。

君の大きな手に触れるのが好きだった。いつだって手を合わせて「大きいねえ」って笑っていた。
あの頃から少し気を張っていたんだと思う。退行と背伸び、不釣り合いな二人。
私は君といるときだけ、全てを特別に変える魔法が使えたんだと思う。

二年後の東京も何も変わらない。歌舞伎町も怖くなくなって、新宿に愛着さえもつようになった
この眠らない街がある限り、私たちは紛れるのだ。ヒールなんて履かない私が、この冷たい街で静かに息をしている。

彼が彼女にちゃんと巡り合えますように、止まっていた時間が動きますように、自ら消えてしまいませんように。残されたものはたとえなくても、彼が明日を正しく選びますように。

いくら迷ったって、自分が選んだ道に間違いはないのだと彼女は言っていた。だから、まだ私は赤信号から離れられない。

冬が来る前に、雪が降る前に、また新しい年が来る前に、新しくなってしまう前に、

捨てるだけがお終いの合図じゃなくて、きっと全部は拾えなくたって。

この両手が抱えきれない程の何か、私がずっと着たかったワンピース。

肺が苦しくなるほどの酸素、呼吸、止まったら負ける。昨日の私に。